生涯でただ一度お金を落としてしまった時の話

あれは小学校に入る前後あたりの頃だったか。家の近くの公民館のようなところで、町内会の子供を集めて月一回ぐらいのペースで、ドラえもんやキャンディキャンディなどの、子供用の映画を2〜3本建て1000円でやっていた。

実際にはそれが映画だったのかTV番組をまとめたものなのかはもう覚えていないけど、自分を含め子供たちはいつもその日が楽しみで楽しみで、友達達みんなで毎回通っていた記憶がある。

ある日、いつものように親にお金をもらって映画館に着いてみると、もらったときには確かにポケットに入れていたはずのお金がない。

右のポケット、左のポケット、後ろのポケット、何回探してもどこにもない。子供にとってのお札、1000円はものすごく大金なのに、それがどこにもない。消えてしまっている。

「来る途中にどこかで落としたんだ!」

あわてて通ってきた道を探しに戻る。途中で友達に
「どこ行くんだー? もうすぐ始まるよー」
と声をかけられても返事をする余裕もなく、ただひたすら半ベソになりながら探し続ける。結局家に戻ってきてしまったけど、お金は見つからなかった。

映画を見られないことや、親に怒られるかもしれないという気持ちよりも、落としたことその事実がとにかく悲しく、半ベソいやむしろ全泣きになりながら親に報告をすると、

「そうかそうか。また1000円上げるから行っておいで」

落としたことをまったく責められもせず、なんとまた1000円をくれた。
「ちゃんとポケットに入っているよな」
今度は何度も何度もお金を確認しながら、公民館へ向かった。

幸い、時間ぎりぎりに間に合って映画は見ることができた。映画そのものの記憶や、その前後の映画の記憶はほとんど残っていないけど、その時の、何とも言えないとても悲しい感情は今でも覚えている。

30年以上たった今でも、無意識でちょくちょくポケットを触って、そこに財布があることを確かめていることに気づいた。たまたまカバンの中にいれていたりして、いつものポケットに無かったりすると、
「ええ?」
と、体がビクッと反応してしまう。

あの時の体験がよっぽどショックだったんだろうな。三つ子の魂百までとは、よく言ったものだ。ただ、それからは一度も物を落としたことがないので、ある意味早めに失敗しておいて良かったのかもしれない。