敷金は全額取り戻せる

過去何度も引越しをしているけど、今まで敷金を全額取り返せなかったことがほとんど無い。減額された時も「とがったものを落として、床材が一部めくれた」というような、明らかに自分の瑕疵によるものだけ。その場合も、その箇所の修繕費用だけなので、費用負担が一万円を越えることは一度もなかった。敷金は平均して40万円ぐらい支払っているので、全額返るかどうかは結構重要だ。

管理会社との交渉をはじめた時には、大抵は「敷金はそもそも全額返るようなものじゃないんですよ」というようなことを言われる。今思い出してもはらわたが煮えくり返る思いだけど、最終的には全額取り返すことができている。

また次に引っ越すときのために、どういう根拠で主張してきたのかを、整理しておこうと思う。

最初にやっておくべきこと

明らかに自分の責任で壊したような所がない場合、「全額取り返す」という気持ちを持ち続けることが一番重要だ。かける時間や労力と、取り返す金額とのトレードオフにはなるけど、とことん主張しても失うべきものは非常に少ない。

退去直後には、まず部屋の写真を撮っておきたい。できれば入居前にも撮っておきたいけど、退去直後の写真だけでも役に立つ。特にキズやシミなど、それを理由に敷金を減額してきそうな所があったら、重点的に撮影しておきたい。交渉の途中で撮影した写真を送ることで「この人は証拠をきちんと残している。これは手強い相手かもしれないぞ」と思わせる効果がある。多くて損することは無いので、多すぎるほど撮影しておきたい。

原状回復と賃借人負担

敷金減額の際に原状回復を主張されることが多い。しかし賃借人の故意・過失がないならその費用を負担する必要は無い。原状回復は、次の借主のため、賃貸人が自身の負担で勝手にやるもの。原状回復ガイドラインというものもあるけど、基本的には「これは賃借人負担じゃないですよね?」と主張しておけばいい。

実際、大体のものは実は賃借人の負担対象じゃないし、仮に賃借人負担のものが混じっていれば向こうがそう言ってくる。普通の生活をしてできた範囲のものは対象とはならない。例えば黒ずみ、画鋲やビスなどの穴、床のへこみ、鍵交換、畳交換、網戸の張替え、ハウスクリーニング(通常の範囲での清掃を行なっている場合)などなど。

賃貸契約で、本来は賃貸人負担のもの(例えばハウスクリーニング)を賃借人が負担するような特約が付いていることも多い。しかしこれは簡単にひっくり返すことができる。自然損耗の部分まで賃借人負担としている特約は無効になる。例えば 福岡簡裁平成16年1月29日判決 借主勝訴の敷金返還請求 で、下記のような判決が出ている。

原状回復とは,原告の主張するような「完全に入居当初の状態に戻すこと」ではなく,借主が原状を変更(襖の好みの色や柄に張り替える等)したとき入居当初の状態に戻すことである。原告の主張する原状回復は,自然損耗分を含めて借主に修理義務を課すものであるが,このような考えは,旧建設省の委託を受けて財団法人不動産適正取引推進機構が,平成10年3月に公表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」という)に反するものである,また,原告の主張する原状回復は,消費者である借主の利益を一方的に害するもので,消費者契約法に反し無効である。

消費者契約法については 職人型内容証明仕掛人の方法論 ! 第87号 にわかりやすくまとまっている。

「貸主と借主の間には情報格差があり、借主に一方的に不利益な契約条項は無効にすべし」
「また、礼金を取っている場合には礼金の法的性質が自然損耗分の原状回復費用と解されている」

つまり、

  • (礼金をとっている場合)礼金の法的性質が、自然損耗分の原状回復費用と解されている
  • そもそも自然損耗は賃借人が負担する理由がない
  • 自然損耗のものを賃借人負担とする特約は、消費者契約法第10条により無効
  • 判例として「福岡簡裁平成16年1月29日判決 借主勝訴の敷金返還請求」などがある

と主張できる。

それでも全額返還をしぶった場合

繰り返しになるけど、中途半端な譲渡は禁物。そもそも敷金は「家賃の滞納や焦げ付き」のための預り金であり、退去時の修繕・クリーニング費用じゃない。全額返ってきて当たり前のもので、全額返ってくることが珍しいと思ってはいけない。

また仮に何らかの名目で請求されたとしても、見積書の「一式」となっている項目はしつこく、詳細を出させる必要がある。一式の場合には必ず無関係なものが含まれていると考えるといい。

例えば畳の表替えや交換の名目での請求があった場合。そもそも自然損耗の対象ではあるけど、全ての畳が見積もりに入っているはずだ。これは「仮に何らかの瑕疵があって自分が負担する必要があるとしても、なぜ全ての畳が一式で請求されているのか?」という主張をするといい。また自分の瑕疵による請求であっても、全額を負担する必要は無い。「自然損耗分もあるのに100%自己負担はおかしくないか?」という主張もしておきたい。縦と横、つまり負担の割合と負担の対象範囲が適切か? という観点を忘れないようにする必要がある。

これはどこかで見つけた言葉だけど、交渉中には忘れないようにしておきたい。

「不法/違法な契約は契約そのものが成立しない」
「違法を知らなかったために成立した契約は取り消すことができる」

さらに揉めるなら

160万円までの敷金なら簡易裁判所で扱え、60万円までなら即日で判決が出る。通常裁判は結構面倒くさいけど、簡易裁判なら一回で終わるのでとても簡単。申し立ては裁判所にある書類で一発。準備に関しても主張したいこととその証拠を用意するだけなので、別に(簡易)裁判だからといって、特別面倒くさい作業とかは必要無い。

なお提訴する場合、被告は契約者である家主(不動産所有者)になる。不動産業者は関係ない。そのため不動産業者が何か言ってきた時には、

「あなたは当事者ではないので、家主と話をしたい」
「提訴すれば被告は家主」
「家主が裁判に巻き込まれるが、いいのか?」

と告げることで、多くの場合は簡易裁判すら回避できる。所詮は費用対効果。相手によっぽど敷金全額返還ができない事情がない限り、「面倒臭い相手」を相手にするよりも取りやすいところから取ればいいや、と思うのが普通だ。全額返還が当たり前の世の中になるといいな、と思う。