「無料で使ってもらう」には、「後が面倒くさいかも?」と思わせたら負け

フリーミアムやプラットフォーム戦略などの考え方が珍しくなくなってから、IT・リアルに関わらず「プラットフォームを使ってもらうために、最初は無料で集客をする」という施策が、色々な分野・業界でごく当たり前のように実行されるようになった。むしろ猫も杓子もというか、「あまり考えず、安易に実行してないか?」と感じることも増えてきたように思える。

先日うちの嫁から、子供の予防接種に行った帰りに病院の前で、生協のセールスに声をかけられたという話を聞いた。生協ということを名乗ったあとに、「キャンペーン中で無料です。人参をお届けしてもいいですか?」と言われたそうだ。自分の生協のイメージは共同購買型だったけど、どうやら最近は個別配送型もやっている、いやむしろそっちの方が主流になっているらしい。

生協に限らず、繰り返し利用するような媒体は、利用し始めるまでの敷居をいかに乗り越えるかということが重要になってくる。

嫁にそれでどうしたかを聞いてみると、

「届けてもらった後、売り込みされたり何だか面倒臭いことになりそう。たかだか人参をもらうためだけに、面倒な目に合うのは嫌だ」

と思って、即答で断ったらしい。もし自分が生協の担当者だったら「とにかく一回使ってもらう」ために、同じように無料で商品を配るという施策を実施してしまったかもしれない。

Kindleコンテンツのマーケティング

自身でも サラリーマン金太郎の1巻無料キャンペーン に見事にやられてしまっているけど、Kindleのコンテンツの無料あるいは大幅値下げキャンペーンは、流石だなと感じることが多い。

携帯電話の契約やスポーツクラブの入会の時に、「入会金あるいは最初の何ヶ月分かの料金が無料になる」というキャンペーンを実施していることが珍しくない。これらは同じ「無料」ではあるけど、プラットフォームを使ってもらうために無料にするという施策とは、狙いが異なる。本契約自体が必要となるため単なる値引きに過ぎず、また既存の利用者・入会者がそのキャンペーンで得をすることはない。むしろ「いま加入するとこんなに得をするのに(自分はその恩恵を受けることができない)」というマイナスの印象を与えてしまう。定期的に解約・退会をしてキャンペーン期間中にまた加入、という方法を取った方が支払い総額が少なくなることも多いため、あまり筋がいいとは言えない。せいぜい解約金や何らかの縛りを設けることぐらいしか対策が無い。

一方Kindleのコンテンツの場合。Kindleというプラットフォームを使ってもらうことを目的として、人気コンテンツが一定期間だけ無料になるというキャンペーンをすることも多い。定期購読型ではないというのもあるけど、格安・無料キャンペーンが対象となるのは「そのコンテンツの価格だけ」ということがはっきりしているため、生協のように後で何かを売りつけられたり、面倒な目に合うかもしれないと心配する必要がない。

また無料や値下げの影響があるのは「そのコンテンツそのもの」なので、まだKindleを利用していないユーザだけではなく、既存のユーザも恩恵をうけることが出来る。扱うものがデジタルコンテンツということもあり、ほとんどが固定費のため、コストをあまり考えずに無料化するという施策を実施しやすい。流れがシンプルで、戦略ストーリーの筋の良さを感じさせられる。

生協はどうしたらよかったか?

明示的に「一度無料で配ったあと、パンフだけ置かせてください。ドライバーは商品を渡す以外のことはやりません(セールスしません)」と周知するのはどうだろうか? いやそうは言っても、これを信頼してもらうのは難しいだろう。

ようは「無料でもらったあとに、面倒なことが待っている」と感じさせなければ、相手に渡すこと自体は成功するはずだ。例えばその場で「生協の人参を無料で配ってまーす。ぜひ一度お試しください」と言ってパンフレットと一緒に渡した場合、受け取ってくれる可能性は上がるのではないだろうか。

ふと気づいた。要するにこれは、駅のティッシュ配りと同じ構図だ。確かに「プラットフォーム」を一度使ってみてもらうことは重要ではあるけど、そのために無料配達で訴求するというのは無理筋というか、あまり効果的じゃないように思える。じゃあどうすべきか。

いっそのこと、「注文しなくてもいいんで申し込みをしてくれたらキャッシュバックします。キャッシュバックして解約してもいいです」とするのはどうか。あるいは変に小技を効かせずに、普通にメニューと注文用紙をポスティングしておけばいいんじゃなかろうか。人参無料配送で訴求するよりは少しはマシなような気がする。